保険業法改正:実効的な体制整備への転換

加藤 悠
2026.01.22

法改正の背景と形式的コンプライアンスの限界
 近年の保険業界では、旧ビッグモーターにおける保険金不正請求事案や大手損害保険会社による保険料調整行為、FPパートナーによる不適切な比較推奨販売など、深刻な不祥事が相次ぎました。これを受け、当局の監視の目はかつてないほど厳しくなっており、その結果、保険業法が改正されることになったのは、既にご存知かと思います。

 改正保険業法は昨年(2025年)6月に公布され、その後、8月28日改正の監督指針により、過度な便宜供与や保険会社による保険代理店への出向について、具体的な規制が設けられました。さらに12月17日には、比較推奨販売や、特に大規模な乗合代理店(特定大規模乗合損害保険代理店・特定大規模乗合生命保険募集人)についての施行規則・監督指針改正案が公表され、現在、パブリックコメントを受け付けています〔今年(2026年)1月30日まで〕。

 これらのすべてを本稿でお伝えすることはできませんが、重要なのは、当局が「形式的なルール整備」から「現場で機能する実効性ある体制整備」へと明確に舵を切った点です。そして、今後はこれにどう対応するかが求められます。もはや、形式だけのコンプライアンスは通用しないのです。
「実効性」が新たな評価軸に
 改正の根幹をなすのは、体制整備における「実効性」の追求です。規程を設けるだけでなく、それが実際の募集現場で機能し、リスク低減や顧客保護に寄与しているかが問われます。

 今後は、内部監査や管理態勢についても「実施したか」という事実以上に、監査を通じて実態を把握し、不適切な点があれば「具体的な改善措置を講じ、態勢を立て直したか」というプロセスが評価基準となります。検証に際しては、必要に応じて中立的な第三者による評価を活用することも望ましいとされています。
「顧客本位」の具体化や不当なインセンティブの排除
 顧客本位の業務運営についても、スタンスは一段と厳格化されました。比較推奨販売においては、いわゆる「ハ方式」が削除され、受け取る手数料水準の高さや保険会社からの便宜供与といった「代理店の都合」による選別を徹底的に排除することが求められます。なお、顧客の意向が不明確な場合であっても、「顧客が特に重視すると考えられる事項を例示する」など、可能な限り顧客の意向を把握した上での対応が必要になりますが、詳細はパブリックコメント回答で明らかにされていくものと考えられます。

 また、「特別利益の提供」の禁止範囲は、契約者本人だけでなく、グループ会社などの「密接な関係を有する者」にまで拡大されました。取引上の社会通念に照らし、不当な物品購入や役務提供(便宜供与)を通じて顧客の自由な選択を歪める行為は、厳に慎まなければなりません。
特に大規模な乗合代理店に課される義務と責任
 直近の手数料受領額が20億円以上の「特に大規模な乗合代理店(特定大規模乗合損害保険代理店・特定大規模乗合生命保険募集人)」には、上乗せの義務が課されます。

 具体的には、営業部門から独立した「統括責任者」の設置や、営業所ごとの「法令等遵守責任者」の配置、さらには内部監査・内部通報態勢の構築が義務付けられました。また、自動車修理業を兼業する場合、その業務が保険金支払に不当な影響を及ぼさないよう監視する体制も不可欠です。これは、規模に応じたガバナンス強化を求める当局からの強いメッセージです。
実務に求められる体制整備まで残された時間はわずか!
 先述の通り、今回のパブリックコメントの受付は1月30日で終了します。期日まであとわずかですが、個別具体的な疑問点があれば意見を投げ込むべきです。なお、金融庁の回答は3月から4月頃に公表される見通しで、改正法の施行日は6月1日です。

 このスケジュールを考えれば、「当局の回答を見てから着手する」という猶予はありません。実務上は、すぐにでも当局の意図を踏まえた実効的な体制整備に着手し、加速させる段階にあります。自社の体制は、形式的な規程の写しではなく、その「実効性」を当局に説明できるものになっているでしょうか。

 当社では、改正法に対して「何から着手すべきか」「どのような手順で社内対応を進めるべきか」に焦点を当てた「2026年施行 保険業法改正0.5」を業界に先駆けて発刊しました。ぜひ手に取っていただき、同書を起点に改正法対応の第一歩を踏み出していただければ幸いです。
参考:
財務省関東財務局「株式会社ビッグモーター、株式会社ビーエムホールディングス及び株式会社ビーエムハナテンに対する行政処分について」
金融庁「大手損害保険会社の保険料調整行為等に係る追加調査の結果について」
財務省関東財務局「株式会社FPパートナーに対する行政処分について」
金融庁「第217回国会における金融庁関連法律案」
金融庁「『保険会社向けの総合的な監督指針』等の一部改正(案)に対するパブリックコメントの結果等の公表について」
金融庁「令和7年保険業法改正に係る内閣府令(案)等に対するパブリックコメントの実施について」
金融庁「令和7年改正保険業法(1年以内施行)に係る『保険会社向けの総合的な監督指針』等の一部改正(案)の公表について」
金融庁「『保険会社向けの総合的な監督指針』等の一部改正(案)の公表について(保険業法施行規則の一部を改正する内閣府令(案)関係)」
金融庁「『保険会社向けの総合的な監督指針』の一部改正(案)の公表について」
(セールス手帖社 加藤 悠)

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