いわゆる”死後離婚”の効果と留意点

森 義博
2026.11.02

姻族関係終了届のニーズ
 配偶者と死別した場合には、離婚とは異なり、義父母などとの姻族関係が自動的に消滅することはありません。法的に姻族関係を終わらせるには、姻族関係終了届を提出する必要があることを、前回ご説明しました。

 姻族関係終了届の件数は、“死後離婚”という言葉が注目を浴びた2010年代後半に増加しました。その後一旦落ち着いたものの、最近再び増加傾向がみられます。これには二つ理由があると言われています。一つは、姻族関係終了届の存在が社会に浸透してきたこと、もう一つは届け出にニーズがある人が増えてきたことです。

 配偶者との死別は平均寿命が近づく頃から増えていきますが、その頃は義父母も他界している場合が多く、姻族の存在が残された側の生活に影響するケースは少ないでしょう。問題になるのは、配偶者の親が要介護になる可能性がある年齢層のケースです。親の介護は長男の役目といった考え方が強い家庭では、長男が亡くなった場合に、その妻が役割を引き継ぐことを求められることが考えられます。つまり、50代、60代の夫を亡くした妻が、姻族関係の終了に最もニーズがある人と言えるでしょう。

 近年50代男性の死亡数が増えていると言うと、まさかと思うかもしれません。確かに、50代男性の死亡率が上昇しているわけではありません。50歳の男性が1年間に死亡する割合は僅か0.2%、60歳でも0.6%で、数年前よりむしろ低下しています(2000年・2025年「簡易生命表」より)。ところが、人口の多い団塊ジュニア世代(1970年代前半生まれ)が50代になったことで、その年齢層の死亡数が増えているのです(図表1)。
図表1 年齢5歳階級別死亡数(50代)(2020年、2025年)
出所)
厚生労働省「人口動態統計月報年計(概数)の概況」(2020、2025年)をもとに作成
姻族関係終了届の効果
 姻族関係終了届を役所に提出して姻族(親族)関係が“法的”に消滅しても、実際に“法的”に変わるものはほとんどありません。扶養義務が課されるリスクがなくなることが挙げられますが、前回ご説明したように、姻族である残された妻に課されるケースは、義父母の直系血族や兄弟姉妹に扶養能力がなく、かつ夫婦が義父母に長く扶養されていた場合など、限定的です。したがって、姻族関係終了届の効果は「義父母など亡夫の血族から扶養や介護を求められても堂々と断われる」ことだと言って差し支えないでしょう。ちなみに、図表2に挙げた点は、姻族関係終了届を提出しても変わりませんので、これらが失われたり不利になったりすることを心配して届出を躊躇する必要はありません。
図表2 姻族関係終了届を提出しても変わらないこと(筆者作成)
①戸籍や姓‥‥
戸籍に「姻族関係終了」と記載されるのみ
※婚姻前の姓に戻したい場合は、復氏届を提出することが必要
②
亡夫の遺産の相続権
③
遺族年金の受給資格
④
子どもが義父母(子どもにとっては実祖父母)の相続人に(代襲相続人として)なること
姻族関係終了届の留意点
 姻族関係終了届を提出するかどうか判断する際の法的な留意点が一つあります。「特別寄与料」の請求権がなくなることです(図表3の③)。義父母を長年介護したとしても、姻族である妻が義父母の相続人になることはできませんが、2019年の民法改正で“相続人ではない親族”が無償で看護や介護などをして財産の維持・増加に寄与した場合は、相続時に「特別寄与料」を請求できるようになりました(民法第1050条)。しかし、姻族関係終了届を出してしまうと、その後に義父母の相続が発生した時には“親族”ではないため、特別寄与料の請求権はありません。もっとも、特別寄与料は当然に受け取れるものではなく、請求を相続人から拒否される場合もあり、その際は家庭裁判所に処分を請求することが必要です。実際に手にできるかどうか不透明な権利よりも、縁を切って精神的負担から解放されることを優先する選択は、十分に合理的だと言えるでしょう。
図表3 姻族関係終了届の留意点(筆者作成)
①
亡くなった配偶者の親族を頼ることができなくなる
②
住まいやお墓がない場合は、自分で用意する必要がある
③
義父母を看護や介護したことによる「特別寄与料」を請求することができない
 姻族関係終了届は一旦提出したら、取り消して元に戻すことはできません。図表3の①、②の留意点も考え合せ、さらに亡夫の一周忌法要などで義父母等と顔を合わせることも想定したうえで、慎重に判断することが大切です。
参考:
森 義博(もり・よしひろ)
公益財団法人ダイヤ高齢社会研究財団 シニアアドバイザー
CFP®、1級FP技能士、1級DCプランナー、ジェロントロジー・マイスター
1958年横浜市生まれ。大学卒業後、国内大手生命保険会社入社、2001年から同グループの研究所で少子高齢化問題、公的年金制度、確定拠出年金、仕事と介護の両立問題などを研究。2015年ダイヤ高齢社会研究財団に出向し研究を継続。2024年4月から現職。
趣味はピアノ演奏と国内旅行(とくにローカル鉄道)。

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