非正規社員は退職金をもらえるの?もらえないの?

水谷 力
2020.11.30

同一労働同一賃金に関わる注目の判決が出る
 正社員と非正規雇用者の同一労働同一賃金に関する5つの事件の最高裁判決が2020年10月にまとめて出され(判決は13日に2件、15日に3件)、話題となりました。今回は、このうち非正規社員への退職金の支払等をめぐって争われた「メトロコマース事件」を取り上げます。
 この事件は、東京メトロ子会社メトロコマースの元契約社員らが、「退職金が支給されないのは労働契約法旧20条が禁止する不合理な格差に当たる」として同社を訴えた訴訟です。二審の東京高裁では、正社員の4分の1は支給すべきと判断されていました。
 「同一労働同一賃金」の実現に向けた働き方改革関連法による旧パートタイム労働法・労働契約法の改正が、大企業では令和2年4月に施行されましたが、その施行以来、初めての最高裁の判決ということで、その判断に注目が集まっていました。
 そのポイントは、次のとおりです。
退職金の格差について
退職金がない労働条件について「不合理な格差に当たらない(=支給しなくて良い)」と判断。
正社員の4分の1は支給すべきとした東京高裁判決を変更。原告側の退職金についての上告を退けました。
 なお、ここで補足すると、「不合理ではない」とは「合理的である」とイコール(同じ)ではないということです。図示するとすれば以下のようなイメージです。
 この判決は、「非正規だから賞与や退職金を払わなくて良い」という単純な話ではありません。裁判官の中には反対意見(原審(東京高裁)の判断を是認)もあったほか、補足意見の中には、「有期契約労働者がある程度長期間雇用されることを想定して採用されており、有期契約労働者と比較の対象とされた無期契約労働者との職務の内容等が実質的に異ならないような場合には、両者の間に退職金の支給に係る労働条件の相違を設けることが不合理と認められるものに当たると判断されることはあり得る」というものもありました。したがって、個々の事情によっては非正規社員に退職金を支払わないことが不合理とされることもあり得ると思われます。
今後の企業の対応は?
 同一労働同一賃金は、「1.業務内容、2.責任、3.配置変更範囲、4.その他の事情」という4つの要素を考慮して「不合理」か「不合理でない」かが判断されるという制度です(パートタイム・有期雇用労働法8条)。具体的には、以下のような点に注意が必要です。
業務内容
業務内容や役割における差異の有無及び程度
業務量(残業時間)や休日労働、深夜労働の有意な差
臨時対応業務などの差  など
責任
業務に伴う責任や差異の有無及び程度
(単独で決裁できる金額の範囲、管理する部下の人数、決裁権限の範囲、職場において求められる役割、トラブル発生時や臨時・緊急時に求められる対応、売上目標、成果への期待度業績や成果に対する責任の有無・程度、責任の差異が人事考課に反映されているか、数字を伴う「結果」について責任を負う立場か、上司の指示を守るなどの「行動」責任を負う立場か  など)
人事考課の差異  など
配置変更範囲
配転(業務や職種変更、転勤)、出向、昇格、降格、人材登用等における差異(実態を重視)  など
その他の事情
正社員登用制度の有無・実績、労働組合やその他労使間での交渉状況、従業員への説明状況、労使慣行、経営状況、正社員登用等の処遇向上に通じる措置の実施状況や実績、非正規労働者が定年後再雇用された者であるか  など
 中小企業については、同一労働同一賃金の施行は2021年4月からとなっています。対応状況に不安がある企業は、社内の諸制度の再確認を行ってはいかがでしょうか。
参照:
【参考情報】
 生命保険の募集人の方は、上記の話から社長の退職金の話につなげることも可能です(詳しくは以下の書籍が参考になります。)
「違いを生み出すファーストアプローチ」
第2章 生保の話題へ移行後のアプローチのポイント
「経営者が関心を持ちやすい話題」
定価 1,210円(税込)
A4判/72ページ
https://www.fps-net.com/php/cms/cmsDtl.php?id=36&categorycd=0
姉妹書
「違いを生み出す生損保リスクチェック」
定価 1,210円(税込)
A4判/80ページ
https://www.fps-net.com/php/cms/cmsDtl.php?id=34&categorycd=0
水谷 力(みずたに・ちから)
株式会社セールス手帖社保険FPS研究所
1級ファイナンシャル・プランニング技能士/生涯学習開発財団認定コーチ

大手保険会社在職中にFP資格やコーチング資格を取得。現在は各種執筆活動などをおこなっている。著書には、「違いを生み出すファーストアプローチ」「違いを生み出す生損保リスクチェック」(いずれもセールス手帖社保険FPS研究所)がある。

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