社内の「いじめ・嫌がらせ」に保険で備える!?

水谷 力
2021.07.29

「いじめ・嫌がらせ」の件数が引き続き最多
 厚生労働省から、「令和2年度 個別労働紛争解決制度の施行状況」が2021年6月30日に公表されました。「個別労働紛争解決制度」とは、個々の労働者と事業主との間の労働条件や職場環境などをめぐるトラブルを未然に防止し、早期に解決を図るための制度で、「総合労働相談」、労働局長による「助言・指導」、紛争調整委員会による「あっせん」の3つの方法があります。厚生労働省では、毎年度、これらの制度の利用状況などを取りまとめ、公表しています。今回の公表の結果、民事上の個別労働紛争の相談件数、助言・指導の申出件数、あっせんの申請件数の全項目で、「いじめ・嫌がらせ」の件数が最多となっていることがわかりました。ここ数年、「いじめ・嫌がらせ」が不動のトップになっています。
ハラスメントに関する会社の法的義務
 ところで、会社の中では「いじめ・嫌がらせ」をはじめとして、各種のハラスメントが行われることが少なくありません。そこで、ハラスメント対策を会社側に義務づける法律も整備されており、ハラスメントの態様に応じて以下のとおり複数あります。
ハラスメントの態様 主な関連法
パワーハラスメント(パワハラ) 労働施策総合推進法
セクシュアルハラスメント(セクハラ)
ジェンダーハラスメント(ジェンハラ)……性別を理由に仕事を割り振る
男女雇用機会均等法第11条
マタニティーハラスメント(マタハラ) 男女雇用機会均等法第9条第3項
男女雇用機会均等法第11条の3
パタニティハラスメント(パタハラ)……育児や介護休業を申請した男性労働者に対する嫌がらせ) 育児・介護休業法第10条
育児・介護休業法第25条
 特に、労働施策総合推進法の改正によって、事業主に対してパワハラ対策を講じる義務等が定められました(2020年6月1日から施行、ただし中小企業は2022年3月31日までは努力義務)。
ハラスメントに関する会社等のリスク
 ひとたびハラスメント行為が発生した場合、会社等に多くの不利益をもたらすことになります。

 まず、ハラスメントの被害者は、加害者(上司、同僚など)に対して不法行為に基づく損害賠償請求をする可能性があります(民法709条)。また、同時に、使用者としての責任を負う会社に対しても、使用者責任に基づく損害賠償請求をする可能性もあります(民法715条)。さらに、会社は、労働者に対して負う安全配慮義務に違反したとして、ハラスメント被害者から債務不履行に基づく損害賠償請求を受けることもあります(民法415条)。これらの請求が認められれば、会社側は被害者に生じた損害(慰謝料も含みます)を賠償しなければなりません。さらに、場合によっては、ハラスメントが放置されているとの風評が広がり企業イメージが低下する結果、営業活動や売り上げ、人材の採用活動に悪影響を及ぼすことにもなりかねません。
会社としての対策
 そこで、会社としてはハラスメント行為の防止・抑制のための対策をあらかじめ講じておく必要があります。具体的には、相談窓口を設置すること、就業規則等にハラスメント規程を定めること(具体例や罰則など)、上記の対策の実施についての社内への周知・徹底などです。

 さらに、これらの対策をとったにもかかわらずハラスメントが発生した場合に備えて、このリスクに対応した保険(特約)である雇用慣行賠償責任補償特約など(保険会社によって名称が異なる)への加入も有効です。この保険は、被用者等(従業員、採用応募者等)に対する差別的行為、ハラスメント、不当解雇等の不当行為に起因して会社とその役員および使用人が負担する損害賠償責任を補償するものです。会社としては検討しておきたい保険といえます。
【参考情報】
生命保険の募集人の方は、上記のような労務リスクの話から生命保険の話につなげることも可能です(詳しくは以下の書籍が参考になります)。
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第2章
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法人編参考
労災事故や社員の自殺で会社の過失が認定された!巨額の賠償請求は保険で補償されるの?
定価 1,210円(税込)
A4判/80ページ
https://www.fps-net.com/php/cms/cmsDtl.php?id=34&categorycd=0
水谷 力(みずたに・ちから)
株式会社セールス手帖社保険FPS研究所
社会保険労務士/1級ファイナンシャル・プランニング技能士
組織開発コンサルタント

大手保険会社在職中にFP資格やコーチング資格等を取得。現在は各種執筆活動などをおこなっている。著書には、「違いを生み出すファーストアプローチ」「違いを生み出す生損保リスクチェック」(いずれもセールス手帖社保険FPS研究所)がある。

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