金融庁のメッセージからその視点を窺う

加藤 悠
2022.02.03

顧客本位の業務運営に関する4つの着眼点
 去る2021年12月22日に、金融庁から「金融庁の1年(2020事務年度版)」が公表された。これは金融庁の2020事務年度(2020年7月~2021年6月)における金融庁の取組をまとめた文書で、「金融各業界に対する、金融庁の監督の視点」を読み解くことができる。

 「金融庁が保険業界に対して、どんな視点を持って監督し、どこに問題意識を持っているか?」を紙面から確認してみると、「保険会社に対する金融モニタリング」の中で「顧客本位の業務運営の定着」について以下の4項目について言及している。
外貨建保険について
近年、販売量の増加に伴い、元本割れリスクの説明不十分などの苦情が多数発生したことに対して、「募集時の説明の充実化等の対応が図られてきた」とある。これは、
金融機関代理店における募集補助資料の導入(現在は重要情報シートに移行)
外貨建保険の実質的な利回りの表示
商品パンフレット等における元本割れリスクに関する注意喚起文言の表示の徹底
を指しているものと思われる。
一方、金融機関代理店の募集管理等についてモニタリング・対話を実施した結果、
新商品の研修に関する受講・理解の状況管理が不十分
適合性の判断基準の妥当性を保険会社と議論している例は多くない
解約返戻金の時価の情報提供についてシステム導入が対応不十分
と見ているようである。
乗合代理店による保険募集について
生命保険会社から代理店に支払われる手数料の多寡により比較推奨販売が歪められるおそれがあるため、金融庁は「顧客本位の商品提案がなされるよう業界に促してきた」結果、生命保険会社は、代理店の評価基準について販売量に偏重したものから業務品質評価を反映したものに見直したが、その内容は「必ずしも顧客視点に基づくものではなかった」とある。これを踏まえて生命保険協会でスタディーグループが設置され、議論がすすめられている(詳細は、拙稿No.4213「乗合代理店の評価制度の新設へ」をご確認いただきたい)。
営業職員チャネルにおけるコンプライアンス・リスク管理について
相次いで金銭詐取問題が発生したことを受けた金融庁からの要請に基づき、生命保険協会は各生命保険会社に「顧客本位の業務運営の高度化に資する営業職員チャネルにおけるコンプライアンス・リスク管理に関するアンケート」を実施、この結果を踏まえて、金融庁は「管理態勢の改善・高度化に向けた創意工夫を後押しするよう要請」している。
契約見直し制度の導入について
顧客のライフステージの変化等により、保障の見直しが必要となる。そこで、金融庁は「既契約等の保障内容を見直す際の顧客視点に立った契約見直し制度の導入を促したい」意向であるが、「契約見直し制度の必要性の認識や、検討のスピード感については、生命保険会社各社によって、考え方が異なることも確認した」とある。
今後も問われる顧客本位の業務運営
 注目すべきは、「保険会社に対する」項目であるにもかかわらず、これらの4項目はすべて「生命保険業界に関する」事項であるという点である。これは、「生命保険は金融商品の中でも契約期間が長いという特徴があり、そのため、募集時の十分な説明及び契約後のアフターフォローの必要性・重要性は他の金融商品と比べても高い」と金融庁も見ているためである。上記4項目を含めて「顧客本位の業務運営」が引き続き問われ続けることとなるだろう。
参照:
(セールス手帖社 加藤 悠)

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