中小企業へのパワハラ防止法施行は保険営業のチャンス?

水谷 力
2022.05.09

 労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律「改正労働施策総合推進法(以下、パワハラ防止法)」は、パワーハラスメント(以下、パワハラ)について定義を定め、防止措置を事業主に義務付けたものだ。大企業は施行済だが、2022年4月からは中小企業についても施行されている。
パワハラは企業の人材流出や生産性低下などにつながるリスクも
 そもそもパワハラは、従業員のみでなく、企業にも大きな影響を与える。また、パワハラの直接の被害者だけでなく、周囲の社員の健康被害を引き起こしたり、企業にとっては人材流出や生産性低下などの経営課題につながったりする。

 企業にとって怖いのは、措置義務に違反することによって、厚生労働大臣による助言・指導および勧告の対象となったり、勧告に従わない場合に企業名が公表されたりすることだけではない。「パワハラの相談窓口がない」とか、「相談しても何も対応してくれない」とかいった従業員の声が、SNSやマスコミなどで流れることだ。この内容は、「パワハラ防止法の措置義務違反」にあたりかねないので、「パワハラ防止に対応していない」という情報が世間に与えるインパクトは決して小さくない。「企業の信頼性の失墜」というダメージにつながるからだ。さらに、それによって、「従業員を募集してもいっさい応募がなくなる」ということにもなりかねない。最近は、求人に応募する前に対象企業の評判をインターネットで検索することが一般的に行われている。応募する際に、「パワハラがあるのに、会社が何もしてくれない」というようなSNSの投稿を見つけたら、応募を考えていた人も躊躇するのではないだろうか。

 さらに、パワハラ防止法の施行によって会社が行わなければならない措置がかなり具体的に示されたため、これを怠っていると、「パワハラ防止法の措置義務違反」に当たるか否かがわかりやすくなっている。これは、パワハラの被害を受けていると感じている従業員からすると、声をあげやすくなっているといえる。
パワハラ対策の一つとして検討しておきたい保険
 また、厚生労働省の調査(職場のパワーハラスメントに関する実態調査)によれば、企業の担当者に対して「職場のパワーハラスメントの予防・解決のための取組は経営上の課題として重要か」を質問したところ、「非常に重要である」、「重要である」を合わせると、回答企業全体の82.1%が重要と認識している。また、従業員規模による差は見られるものの、パワーハラスメントの予防・解決のための取組の重要性に対する認識は全般的に高いことがうかがえる。

 ところが、中には「パワハラ防止のための研修でパワハラについて詳しく説明したところ、従業員の意識が高まったことで、かえって今まで見過ごされてきたパワハラ行為に対する被害の訴えが増えた」などという声も聞こえてくる。従業員の意識が高まることで、企業にとっては従業員からの損害賠償請求リスクに備える必要も高まってきたといえる。

 このような損害賠償請求リスクに対応する保険としては、「ハラスメント保険(雇用慣行賠償責任保険(特約))」(名称は会社によって異なる)がある。従業員等に対するパワハラ等に起因して会社や役員使用人が負担する損害賠償責任を補償するものだが、パワハラ対策の一つとして検討しておきたい保険だ。
【参考情報】
生命保険の募集人の方は、上記のような損害保険の話から生命保険の話につなげることも可能です(詳しくは以下の書籍が参考になります)。(今回のテーマと同一ではありませんが、労務リスクからのアプローチトークも収録されています)
お陰様で4刷目に突入。ますます売れています!
「違いを生み出すファーストアプローチ」
第2章
アプローチの実践<法人・特定マーケット編>
第1話
労災事故や社員の自殺で会社の過失が認定された!
巨額の賠償請求は保険で補償されるの?
定価 1,210円(税込)
A4判/72ページ
https://www.fps-net.com/php/cms/cmsDtl.php?id=36&categorycd=0
「違いを生み出す生損保リスクチェック」
第3章
アプローチの実践・損保の話題からリスクチェックへ
法人編5
「労災事故の内容で補償が違う」のは変?
法人編参考
労災事故や社員の自殺で会社の損失が認定された!
巨額の賠償請求は保険で補償されるの?
定価 1,210円(税込)
A4判/80ページ
https://www.fps-net.com/php/cms/cmsDtl.php?id=34&categorycd=0
水谷 力(みずたに・ちから)
株式会社セールス手帖社保険FPS研究所
社会保険労務士/1級ファイナンシャル・プランニング技能士
組織開発コンサルタント

大手保険会社在職中にFP資格やコーチング資格等を取得。現在は各種執筆活動などをおこなっている。著書には、「違いを生み出すファーストアプローチ」「違いを生み出す生損保リスクチェック」(いずれもセールス手帖社保険FPS研究所)がある。

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