男女差がある年金~遺族年金~

三角 桂子
2024.09.26

 前回(No.4724)は、5年に1度の公的年金の定期健康診断である「財政検証」についてお伝えしました。財政検証では、働き方が多様化し、共働き夫婦(女性の社会進出)が増加していることもあり、年金制度の見直し案が発表されました。

 今回の見直し案の大きな注目点は遺族年金ですが、遺族年金は公的年金の中でも、「夫が外で働き、妻が家を守る」という、かつての日本の家族制度が色濃く残っている制度です。

 当コラムでは、再確認の意味も込め、現状の遺族年金について解説します。
遺族基礎年金
 国民年金から支給される遺族基礎年金の役割はセーフティネットであり、遺された家族の生活保障の役割を担っています。原則18歳に到達した最初の年度末までの子がいる場合に受け取ることができ、要件を満たした「子のある配偶者」または「子」に支給されるものです。つまり、該当する「子」がいないと受け取ることができないことが大きな特徴となっています。

 かつては、「子のある妻」および「子」のみが対象で、「子のある夫」は受給対象とはされていませんでしたが、2014(平成26)年に「子のある配偶者」と受給範囲が拡大され、「夫」も遺族基礎年金の受給対象となった経緯があります。

 なお、受給対象となる「配偶者や子」がいない場合、国民年金の独自給付として「寡婦年金」と「死亡一時金」が支給されることがあります。どちらも国民年金のみの給付制度で、厚生年金保険にはありません。

 寡婦年金は、国民年金の第1号被保険者(任意加入被保険者を含む)の「保険料納付済期間」と「保険料免除期間」が、合わせて10年以上ある夫が亡くなったとき、夫によって生計を維持され、かつ、夫との婚姻関係(事実婚を含む)が10年以上継続している妻に、60歳から65歳になるまで支給されます。

 名称が「寡婦年金」であることからもお分かりのとおり、「寡夫」に支給されることはありません。
遺族厚生年金
 遺族厚生年金は、亡くなった人の厚生年金の加入期間や報酬の額をもとに計算され、「亡くなった人の老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3」が支給されます。

 受給対象者が配偶者である場合、妻には原則、年齢要件がありません※が、夫は、「妻の死亡当時55歳以上」でなければ受給資格そのものが与えられません。しかも、55歳以上であったとしても、受給できるのは60歳からという大きな男女差が存在しています。
※30歳未満の子のない妻は5年の有期年金

 また、遺族厚生年金は、亡くなった人の厚生年金保険の加入期間と妻の年齢によって加算がつく場合があります。これを中高齢寡婦加算といいます。中高齢寡婦加算も名称に「寡婦」がついていることもあり、当然ながら「寡夫」には支給されません。

 なお、公的年金は1人1年金が原則ですが、65歳以上で「遺族厚生年金」と「自身の老齢厚生年金」が受け取れる場合については例外規定が定められ、2つの年金を併給することが可能です。しかし、両方とも全額受け取れるのではなく、まず、「自身の老齢厚生年金」を受け取り、遺族厚生年金は、「差額支給」となります。
男女差を解消するために見直しされる
 現在、65歳以上で年金を受給している人の多くは、「夫が外で働き、妻が家を守る」世代の人ですが、共働き夫婦が増加し、働き方も多様化していることもあり、将来的には「妻が外で働き、夫が家を守る」もしくは「夫婦ともに自由な働き方をする」人たちが増えるかもしれません。そうなった場合に、現在の遺族年金の仕組みでは対応しきれないケースも想定されるところです。

 前述のように、遺族年金には男女差が色濃く残っています。それを解消するため、今回の財政検証で男女差是正へ大きく舵がきられました。

 働き方や家族の在り方も多様化し、男女差についても解消していかなければいけません。万一のリスクに備える公的年金の男女差も見直すべき時期になったのでしょう。
三角 桂子(みすみ・けいこ)
社会保険労務士法人エニシアFP 代表社員
FP・社会保険労務士

大学卒業後、公務員、専業主婦、自営業、会社員、シングルとあらゆる立場を経験し、FPと社会保険労務士として開業し、5年目に法人化(共同代表)。
FPと社会保険労務士の二刀流を強みに、法人・個人の労務、年金の相談業務やセミナー、執筆など、幅広く行っている。
常に自身の経験を活かし、丁寧な対応を心がけ、生涯現役に向かって邁進中。
法人名はご縁(えにし)に感謝(ありがとう)が由来。

公式サイト https://sr-enishiafp.com/

▲ PAGE TOP