何のために働くか

森 義博
2025.06.02

何のために働くか
前回(No.4854)は内閣府の「国民生活に関する世論調査」(2024年8月調査)の結果から、「将来への備え」か「今の生活の充実」か、「心の豊かさ」か「物質的な豊かさ」か、どちらを重視するかという生活設計に関わる“価値観”について取り上げました。

 もう少しこの調査結果を見ていきましょう。今回のテーマは“就労”。「あなたが働く目的は何ですか。あなたの考え方に近いものをお答えください。」という質問です。
①お金を得るため
②社会の一員として、務めを果たすため
③自分の才能や能力を発揮するため
④生きがいをみつけるため
 選択肢は以上の4つ。働く目的は必ずしも1つではないと思いますが、この質問は単一回答式です。私の勝手な想像ですが、質問者は働く主目的が「お金のため」なのか「それ以外」なのかを明らかにしたかったのではないでしょうか。ただ、「それ以外」の具体的な内容は1つに絞れないので、このような四択になったのだと思います。

 男女をあわせた全体では、「お金を得るため」が62.9%でした。「お金を得るため」は前年(2023年11月)より1.6ポイント低下し、その分「生きがいをみつけるため」と「無回答」が微増していますが、比較可能な2021年以降ではどの選択肢も毎年微妙に上下しており、「お金を得るため」が減少傾向にあるというわけではありません。

 この調査は、2021年以降は郵送法、それより前は個別面接聴取法で実施されたため、調査方法変更の前後の結果は単純比較できません。それでもあえてこの20数年間の大まかな流れをみると、「お金を得るため」が漸増し、「生きがいをみつけるため」が漸減していると言えそうです。(データは割愛します。ご興味のある方は稿末記載の「国民生活に関する世論調査」のWEBページをご参照ください。)
30代の8割が「お金を得るため」に働く
 男女別、年齢層別の回答結果は図表1のとおりです。
 「社会の一員として、務めを果たすため」以外に目立った男女差はありません。「社会の一員として‥」の男女差を見て、「べき論」派は男性が多いと改めて感じました。「べき論」派の男女差は最近別の調査結果でも見かけたのですが、その話はまた機会があるときに。

 一方、年齢層別の回答には、ライフステージの変化がわかりやすく反映されていると感じました。家族が増えていく30代に「お金を得るため」がピークを迎え、会社等で役職上の責任が増す50代に「社会の一員として‥」が、さらに60代以上になると「生きがいをみつけるため」が増えていきます。なお、回答者には現在働いていない人も含まれますので、特に70歳以上には、必ずしも現在自分が働いている目的ではない回答がかなり含まれている点に注意が必要です。
図表1
あなたが働く目的は何ですか。あなたの考え方に近いものをお答えください。(〇は1つ)
出所)
内閣府「国民生活に関する世論調査」(令和6年8月調査)をもとに作成
定年後も働き続けている理由
 ダイヤ高齢社会研究財団が定年退職後も働き続けている人を対象に、働く理由を尋ねた調査データがあります。少し古い調査ですが、60代後半男性の回答をご紹介します(図表2)。

 「生活のハリ・生きがいを持つため」が46.6%でトップですが、「日々の生計維持のため」も42.9%と拮抗しています。この質問は複数回答(上限2つ)ですので、仮に単一回答式だったらこのどちらが1位だったか微妙ですが、「より豊かな生活をするため」も20.7%ですので、経済面の理由がトップなのは間違いないでしょう。

 ところで、「健康のため」を22.0%の回答者が選んでいます。高齢者が働く目的として「健康のため」がしばしば挙げられますが、これは目的というより“メリット”ですね。内閣府の調査の選択肢にないのも納得できます。また、選択肢を設けるかどうか財団内で賛否両論あった「他に特にやりたいことがないため」は3.8%でした。この数字は、はたしてどう解釈すべきでしょうか。
図表2
定年退職後も働き続けている理由を次のうちから2つまでお選びください。
出所)
ダイヤ高齢社会研究財団「50代・60代の働き方に関する調査」報告書(2018年7月)をもとに作成
参考:
森 義博(もり・よしひろ)
公益財団法人ダイヤ高齢社会研究財団 シニアアドバイザー
CFP®、1級FP技能士、1級DCプランナー、ジェロントロジー・マイスター
1958年横浜市生まれ。大学卒業後、国内大手生命保険会社入社、2001年から同グループの研究所で少子高齢化問題、公的年金制度、確定拠出年金、仕事と介護の両立問題などを研究。2015年ダイヤ高齢社会研究財団に出向し研究を継続。2024年4月から現職。
趣味はピアノ演奏と国内旅行(とくにローカル鉄道)。

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