えっ!カスハラに対応する保険があるの!?

水谷 力
2025.09.22

中小企業経営を守るための新たな潮流
 今日のビジネス環境は目まぐるしく変化しています。特に中小企業経営者が直面するリスクは、火災や自然災害といった物的損害だけにとどまりません。ハラスメントや情報漏洩、サイバー攻撃など、新たな形態の事故や損害が次々と発生しています。

 こうした背景を踏まえ、近年は企業と顧客との関係性が大きく変化しています。顧客からの正当なクレーム対応は企業の重要な責務ですが、その一方で、過度な要求や暴言・威嚇といった「カスタマーハラスメント(以下、カスハラ)」の増加が社会問題化しています。特に中小企業では、人員や体制の制約からカスハラ対応に追われ、本来の業務や従業員のメンタルヘルスに深刻な影響を及ぼすケースも少なくありません。

 また、カスハラ対策は企業の「人的資本経営」の一環としても位置づけられます。従業員の安全と尊厳を守る姿勢を示すことは、採用力や定着率の向上にも寄与し、企業価値の向上にもつながります。こうした人的資本の観点からの対策も重要です。
カスハラ対策の具体例
 では、カスハラ対策としてどのような方法が考えられるでしょうか?具体例としては、以下のようなものが考えられます。
1.
社内ルール・ガイドラインの作成
カスハラの定義や対応方針を「対応マニュアル」や「ガイドライン」として作成する など。
2.
研修の実施
社員向けに「カスハラ対応研修」や「メンタルヘルス講座」を開催する など。
3.
記録・証拠の管理
通話の録音や監視カメラの映像を保存し、証拠を確保する など。
4.
相談窓口
社内に「ハラスメント相談窓口」を設置する など。
5.
外部の専門家との連携
弁護士や産業医、産業カウンセラーなどと連携し、法的・心理的な支援体制を構築する など。
6.
事前告知による抑止
「通話は録音されています」「暴言・威圧的な言動には対応できません」などの注意書きを掲示する など。
保険による対策も
 これらに加え、保険による対策も選択肢の一つになります。たとえば、東京海上日動火災保険では、2025年10月から業務災害総合保険「超Tプロテクション」の特約「雇用関連賠償責任補償特約」に「カスハラ発生時の補償」を導入します。補償の対象は大きく二つあります。第一が、カスハラにより業務が妨害され、金銭上の損害またはそのおそれが発生した場合の法律相談費用です。これを補償することで、経営者や担当者が専門家の助言を得やすくなります。第二が、同様の被害の再発を防止するための再発防止費用です。具体的には社内研修や対応マニュアル作成、コンサルティング費用など、再発抑止のために要する費用が対象となります。

 さらに注目すべきは、無償のカスハラ相談サービスも新設される点です。カスハラに遭った際の対処方法について、弁護士へ電話相談できるというものですが、これは中小企業にとって心強い支えとなります。

 中小企業がカスハラ対策を検討するにあたり、このような保険による対策もぜひ検討しておきたいところです。
【参考情報】
生命保険の募集人の方は、上記のような損害保険の話から生命保険の話につなげることも可能です(詳しくは以下の書籍が参考になります)。パワハラなど雇用関連の賠償責任保険の話題からのアプローチトークも収録されています(第2章アプローチの実践<法人・特定マーケット編>第6話えっ、上司が部下にパワハラ?会社の責任にもなるの!?)。
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水谷 力(みずたに・ちから)
株式会社セールス手帖社保険FPS研究所
社会保険労務士/1級ファイナンシャル・プランニング技能士
組織開発コンサルタント

大手保険会社在職中にFP資格やコーチング資格等を取得。現在は各種執筆活動などをおこなっている。著書には、「違いを生み出すファーストアプローチ」「違いを生み出す生損保リスクチェック」(いずれもセールス手帖社保険FPS研究所)がある。

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