将来の基礎年金給付水準の底上げについて

岡﨑 一恵
2025.10.16

前回(No.4934)は、2025年6月13日に可決、成立した年金制度改正法の概要と公的年金の活用法についてお話しました。今回は改正内容の1つである「将来の基礎年金給付水準の底上げ」について解説します。
公的年金は2004年から「拠出先決め方式」に
 日本は1970年に高齢化社会に突入し、その後の少子高齢化の進展により、「給付水準を先に決め、そのために必要な保険料率を算定する」という、「給付先決め方式(給付水準維持方式)」による公的年金の維持が難しくなりました。

 そこで、2004年の年金制度改正において、「現役世代が払い込む負担額を先に決め、それをベースに受給者への給付額を算出する」という「拠出先決め方式」に変更されました。

 この考え方に基づき、将来の保険料率を法律で上限として固定する「保険料水準固定方式」と、賃金や物価の改定率を調整して緩やかに年金の給付水準を調整する「マクロ経済スライド」が導入されました。また、「標準的なシニア夫婦世帯の年金額が、現役世代男性の平均手取り額の50%を下回ることのないようにする」という給付水準の尺度(所得代替率)が設けられ、制度の持続可能性を確認するための「財政検証」が5年ごとに行われることになりました。
経済が好調に推移しない場合、基礎年金が下がる見通し
 公的年金の受給額は、国民全員が加入する定額の基礎年金(1階部分)と、収入に応じて保険料や受給額が変動する厚生年金(2階部分)の合計です。定額の基礎年金があるため、所得の低い方に比較的手厚く給付されます(所得再分配機能)。

 しかし、その後のデフレと低成長の長期化による基礎年金の財政悪化、女性や高齢者の就業拡大による厚生年金の財政改善などにより、基礎年金と厚生年金の財政バランスが崩れました。2024年の財政検証の結果、経済が好調に推移すれば基礎年金の給付水準は概ね維持される一方(成長型経済移行・継続ケース)、経済が好調に推移しない場合、基礎年金は現在よりも約25%下がることが示されました(過去30年投影ケース、図1)。
図1 将来の基礎年金水準の低下への対応
 この背景には、基礎年金と厚生年金のマクロ経済スライド調整終了時期のズレがあります。2004年の改正では、マクロ経済スライドによる調整期間が基礎年金と厚生年金で一致するように保険料水準が定められました(ともに2023年)。しかし、その後の経済状況の推移を経て、過去30年投影ケースでは、財政状況が比較的堅調な厚生年金は2028年度に調整が終了するのに対し、基礎年金の調整終了は2052年度になる見通しです。

 そこで、「厚生年金の調整期間を2037年度まで延伸するとともに、基礎年金の調整期間を2037年度まで短縮し、生まれた財源の活用により基礎年金を底上げする」という措置が提案されました。
底上げにより、基礎年金の給付水準が上昇
 この措置を実施した場合、厚生年金の保険料と積立金が、これまで以上に基礎年金に拠出されることになります。また、安定財源を確保したうえで、基礎年金の国庫負担(税金)が増額されます(図2)。こうした対応を行うことで、基礎年金と厚生年金の給付水準のバランスは回復し、基礎年金の所得再分配効果も高まります。
図2 基礎年金の底上げのイメージ
 また、この措置を講じることで、62歳以下の男性および66歳以下の女性は生涯に受け取る年金総額が増える見込みです(2024年の財政検証に基づくモデル試算)。なお、年金額が「この措置を講じなかった場合の額」を下回るときは、その影響を緩和する措置が行われるとされています。
実施は2029年の財政検証で判断
 「将来の基礎年金の給付水準の底上げ」は修正法案として盛り込まれ、その実施は、次の財政検証(2029年実施予定)の結果を踏まえて判断されます。具体策や財源などについても同様です。

 結論は今後の経済状況次第ですが、基礎年金拠出期間の延長(40年→45年)や、さらなる厚生年金の適用拡大も影響します。正しく理解したうえで、今後の年金改正の行方に注視する必要があります。
参考・出典:
岡﨑 一恵(おかざき・かずえ)
社会保険労務士岡崎一恵事務所 代表
社会保険労務士
1級ファイナンシャルプランニング技能士、CFP®認定者

滋賀県大津市出身。同志社大学卒業後、地方銀行の人事部に勤務。
子育てのブランク9年と、紆余曲折の後、社会保険労務士として2018年開業。
2021年CFP®認定者として登録、2023年「くらしとお金のFP相談室」相談員、2024年日本FP協会FP広報センタースタッフを務める。
NPO法人障害年金支援ネットワークに所属。
地元横須賀の中小企業の労務管理と、障害年金代理請求業務、障害年金を受給されるご家庭のライフプラン相談に取り組む。

公式サイト https://www.okazakikazue.net/

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